加齢によるもの忘れは誰にでも起こる自然なことですが、新しい出来事を記憶できない、時間・場所を間違える、もの忘れの自覚がない、などの症状があり日常生活に支障を来している場合は「認知症」の可能性があります。現在のところ、認知症を治すことはできませんが、症状を緩和したり、進行を遅らせたりすることはできます。
また、慢性硬膜下血腫・水頭症などの病気や甲状腺ホルモンの低下が原因でもの忘れが起こっている場合もあり、まずは問診や血液検査・画像検査を行い、もの忘れが認知症で起こっているのかを判断することが必要です。
認知症によるもの
アルツハイマー型認知症
認知症の約7割を占める、最も多いタイプの認知症です。最近の出来事を忘れる、時間や場所がわからなくなる、料理や着替えなどの動作ができなくなる、などの症状が特徴です。薬で症状の進行を遅らせたり、症状を緩和する治療を行います。脳を刺激するために運動や生産的な活動を行うことも有効です。また、軽症の場合は病気の進行を遅らせる点滴の適応がある可能性があり、ご希望の場合は治療可能な総合病院に紹介させていただきます。
血管性認知症
認知症の約2割を占め、アルツハイマー型認知症に次いで多いタイプです。アルツハイマー型認知症と合併する場合もあります。脳梗塞や脳出血で脳細胞が破壊されることで起こります。MRI検査で脳細胞が破壊されている程度を確認することが診断に有用です。根本的な治療はありませんが、更なる症状の悪化を防ぐために脳梗塞・脳出血の予防治療が必要です。
レビー小体型認知症
認知症の約4%程度を占めます。認知機能の低下の他に、幻視(実際にはいない人や動物、虫などが見える)、手足のふるえなどが見られることが特徴です。症状を緩和する内服薬の処方などで治療を行いますが、薬によってはふるえなどの症状を悪化させてしまうことがあるため慎重に薬の調整を行います。
前頭側頭型認知症
認知症の約1%程度を占めます。発症年齢が50〜60代と比較的若年であり、人格が変化したり、同じ行動を繰り返す、礼儀に欠ける行動をとる、などの症状が見られます。また、本人は自覚がないことがほとんどです。MRIでは脳の「前頭葉」や「側頭葉」と呼ばれる部位の萎縮を認めます。根本的な治療はなく、症状を緩和する内服薬の処方などで治療を行います。
認知症以外によるもの
慢性硬膜下血腫
脳と頭蓋骨の間にゆっくりと出血が溜まり、脳を圧迫する病気です。多くは高齢の方が頭を打った後にゆっくり出血が溜まるため、外傷から2週間〜3ヶ月経過した頃に起こります。脳が圧迫されることで認知症と似たもの忘れなどの症状が起こることがあります。診断には画像検査が有効です。手術によって溜まった出血を取り除く治療を行います。
水頭症
脳や脊髄のまわりは「脳脊髄液」で満たされていますが、その脳脊髄液が「脳室」と呼ばれる部位に過剰に溜まる病気です。脳が圧迫されることで、認知症の低下や、歩行の障害、尿失禁などの症状が出現します。MRIで脳室の拡大を確認することで診断します。溜まった脳脊髄液を流すための手術で治療します。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが不足すると、脳の代謝異常が起こったり、精神活動が低下することで認知症のような症状が起こることがあります。血液検査で甲状腺ホルモンの数値を調べることで診断します。治療には甲状腺ホルモンを補充する内服薬が有効です。
その他
その他の原因でもの忘れが起こっている場合があり、問診や診察に加え、必要に応じて血液検査や画像検査を行いながら原因を探していきます。